超弾性体(Mooney-Rivlin体)のパラメータの求め方

1. 非圧縮性Mooney-Rivlin体のモデル
1.1 超弾性体の定義
超弾性体は、スカラーのひずみエネルギ関数Wを用いて、以下のように応力とひずみの関係が表せる材質として定義される。
Sij = W = 2 W (1)


EijCij
ここで、Sijは第2 Piora-Kirchhoff応力テンソル、EijはGreen-Lagrangeひずみテンソル、Cijは右Cauchy-Green変形テンソルである。
1.2 ひずみに関する不変量
Cijに適当な直交変換を施しても変化しない不変量として、
第1不変量: I1 = trace(Cij) (2)
第2不変量: I2 = 1/2*(trace(Cij)2 - trace(Cij2)) (3)
第3不変量: I3 = J = det(Cij) (4)
が定義される。なお、第3不変量は体積膨張率Jに等しい。
Mooney-Rivlin体では、これらの不変量を用いてひずみエネルギ関数を定義している。なお、Ogden体ではCijの固有ベクトル(=主ひずみ)を用いてひずみエネルギ関数を定義している。
1.3 低減不変量
ひずみエネルギ関数について、体積膨張の影響による成分Wvolと体積が保存されたひずみによる成分Wisoに分解しておくと、非圧縮性などを考慮するときに都合がよい。
まず、Cijを体積膨張成分と体積保存成分に分解する。
Cij=J2/3 Cij (5)
このCijを用いると、ひずみエネルギ関数は以下のように書ける。
W = Wiso(Cij) + Wvol(J) (6)
このCijについて不変量を求めると、以下のようになる。
第1低減不変量: J1 = trace(Cij) = J-1/3 I1 (7)
第2低減不変量: J2 = 1/2*(trace(Cij)2 - trace(Cij2)) = J-2/3 I2 (8)
第3不変量はJと等しいので、省略した。
実際のMooney-Rivlin体では、不変量の代わりにこれらの低減不変量が使われることが多い。
1.4 非圧縮性超弾性体
非圧縮性超弾性体は、ひずみエネルギ関数にJ=1の拘束条件を付与することで実現する。
そのため、式(6)のWvol(J)について、Wvol(1)=0となる単調な関数を定義する。この関数を用いて、式(6)にラグランジェ未定乗数法を適用する。
W = Wiso(Cij) + p Wvol(J) (9)
pはラグランジェ未定乗数であり、物理的には静圧を意味する。
1.5 非圧縮性Mooney-Rivlin体
以上を踏まえて、非圧縮性Mooney-Rivlin体は以下の式で定義される。
Wiso = N ckl (J1 - 1)k + clk (J2 - 1)l (10)
k+l=1
Wvol(J) = J - 1 (11)
特に、以下のパラメータ算出で用いる3次Mooney-Rivlin体の場合(N=3)は、
Wiso = c10(J1 - 1) + c01(J2 - 1) (12)
+ c20(J1 - 1)2 + c11(J1 - 1)(J2 - 1) + c02(J2 - 1)2
+ c30(J1 - 1)3 + c21(J1 - 1)2(J2 - 1) + c21(J1 - 1)(J2 - 1)2 + c03(J2 - 1)3
2. 単軸引張試験の応力
2.1 非圧縮性超弾性体の応力
式(9)を式(1)に代入すると、最終的に以下の式が得られる。
Sij = -p Cij-1 + 2 Wiso (13)

Cij
また、
Wiso = Wiso J1 + Wiso J2 (14)





Cij J1 Cij J2 Cij
J1 = J-1/3 δij - 1/3*I1*J-1/3 Cij-1 (15)

Cij
J2 = I1*J-2/3 δij - J-2/3 Cij - 2/3*I2*J-2/3 Cij-1 (16)

Cij
の関係がある。
2.2 単軸引張試験の応力
非圧縮性の直方体を、ある軸がL倍になるまで引っ張るとする。このとき、他の軸はそれぞれL1/2倍になり、体積一定を保つ。以後、引張の方向をi=1、他の方向をi=2,3としてテンソルを表記する。
この状況で、ひずみに関する各変数はそれぞれ以下のようになる。
C = L2 0 0 (17)
0 L-1 0
0 0 L-1
C-1 = L-2 0 0 (18)
0 L 0
0 0 L
J1 = L2 + 2L-1 (19)
J2 = L-2 + 2L (20)
J = 1 (21)
式(14-21)を式(13)へ代入し、直方体が側面から力を受けていない拘束条件S22 = S33 = 0を適用すると、pが求められる。これを利用して、S11が求められる。
S11 = 2(1 - J3)( Wiso + L-1 Wiso ) (22)


J1 J2
また、応力ひずみ曲線の応力は公称応力で表現されるため、公称応力Tijを求める。
T = S FT (23)
ここで、Fは変形勾配テンソルで、
F = L 0 0 (24)
0 L-1/2 0
0 0 L-1/2
従って、
T11 = S11*L (25)
3. 応力ひずみ曲線のカーブフィッティング
式(25)で与えられる応力ひずみの関係が、実験で与えられた応力ひずみ曲線T11*(L)に最もフィットするためのMooney-Rivlin体のパラメータcijを求める。
最小二乗法を用いると、これは以下の式を最小化するパラメータを求めることと同意である。
min {T11*(Lk) - T11(c, Lk) }2 (26)
c k
T11cijに対して非線形であるため、Newton-Raphson法を用いる。この場合、T11cijに対する微分を用いて式(26)を変形し、n回目の繰り返しにおいてパラメータnc(ベクトル)に対して、
min {T11*(Lk) - T11(nc, Lk) - T11(nc, Lk) ndc }2 (27)

c k c
を最小化するパラメータのアップデート量ndcを求める。n+1回目では、n+1c = nc + ndcとしてパラメータを更新し、ndcが0になるまで繰り返す。
式(27)は次式のように行列で表すことができる。
min (1/2* ndcT H ndc + D ndc) (28)
dc
H = T11T T11 (29)


c c
D = - T11T (T11 - T11*) (30)

c
式(28)の解は停留点を求めることで得られる。
H ndc + D = 0 (31)
ncの更新が収束すれば、それが最終的なパラメータとなる。
4. ロバストな超弾性モデルのためのパラメータ拘束
材料非線形のFEMを実行すると、解析が不本意なエラーで停止するという事態に遭遇することがある。この原因の1つには、メッシュが解析中に潰れる、もしくは裏返ることにある。単にメッシュの性質が悪い場合には、メッシュの作り方を工夫したり、解析中にリメッシュすることでエラーを回避可能だが、実は材料モデルのパラメータに問題がある場合がある。この場合、メッシュの工夫のみではエラーを回避できない。
具体的には、境界条件として与えられる外部エネルギと物体内のひずみによる内部エネルギが一致するひずみを求める作業がFEMであるが、超弾性体の場合、パラメータによってはひずみエネルギ関数が同一の値となるひずみが複数存在する可能性がある。この場合、運が悪いと本来起こりえないひずみが解として選択され、メッシュを破綻させる原因となるのである。
もし、これからパラメータを決定するのであれば、この問題を確実に回避できるパラメータの選定方法が存在する。すなわち、ひずみエネルギ関数を凸関数にするようなパラメータを選定することである。凸関数の方程式は、数学的に解の存在と一意性と保障されるため、FEMでは外力に対してひずみが一意に決定されるのである。ひずみエネルギ関数や不変量の凸性については、後述の参考文献に詳細が記述されている。ここでは、そこから得られた要点のみを述べる。
Mooney-Rivlin体の場合、J1は凸関数だが、J2は一般には凸でない。従って、J2を含む項は一切使えない。もしくは、実はJ2nに対してn>=1.5であれば凸となるため、J2J2nにすり替える方法があるが、このような式は汎用のFEMソルバには実装されていないので、自分で構成式を入力できるシステムのみ有効である。汎用のFEMソルバを仮定すれば、3次Mooney-Rivlin体に対してc10, c20, c30のみを使い、それらが0を含んだ正値であればひずみエネルギ関数が凸となる。
本データベースのパラメータを求める際には、このパラメータ拘束を入れた場合と入れない場合のパラメータ同定を行い、すべての中から結果が良好なものを選択している。
5. 本データベースでのパラメータ算出方法
本データベースでは、上述のパラメータ算出方法を適用して、以下のパラメータの組み合わせに対してそれぞれパラメータを求めている。(未使用のパラメータは0とする。)
モード 使用パラメータ パラメータ拘束
Neo-Hookean c10 -
1次Mooney-Rivlin体 c10, c01 -
2次Mooney-Rivlin体 c10, c01, c20, c11, c02 -
3次Mooney-Rivlin体 c10, c01, c20, c11, c02, c30, c21, c12, c03 -
2次Mooney-Rivlin体* c10, c20 c10, c20 >= 0
3次Mooney-Rivlin体* c10, c20, c30 c10, c20, c30 >= 0
また、それぞれに結果に対して相関係数を求めてカーブフィッティングの評価を行った。応力ひずみ曲線のデータ全域を用いて相関係数が0.98未満であった場合、ひずみの大きい部分をカーブフィッティングの領域から除外し、相関係数が0.98に達するまでひずみの範囲を狭めている。
データベースには、各組織について表のモデルのうち1モデルを選択して掲載している。その選択方法は、まず応力ひずみ曲線を実際に描いて、例えば正のひずみに対して応力が一旦負になってから正になるようなモデルを候補から除外する。次に、全ひずみ領域に対して相関係数が0.98を超える場合については、最も相関係数の高いものを、また全ひずみ領域に対して相関係数が0.98に満たなかったものについては、相関係数0.98を満たす最も広いひずみ範囲のモデルを選択した。
6. 参考文献
テンソル、構成式に関して
[1] 久田俊明. 非線形有限要素法のためのテンソル解析の基礎. 丸善, 東京. 1992
[2] 久田俊明, 野口裕久. 非線形有限要素法の基礎と応用. 丸善, 東京. 1995
[3] Gerhard A. Holzapfel. Nonlinear Solid Mechanics - A Continuum Approach for Engineering. John Wiley & Sons, Ltd., New York, 2005
ひずみエネルギ関数の凸性に関して
[4] Jörg Schröder, Patrizio Neff. Invariant formulation of hyperelastic transverse isotropy based on polyconvex free energy functions. Int. J. Solids and Structures 40 (2003), 401-445.
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